AKANET2号
メーカーの製造責任を問う -建築ジャーナル1996年8月号より-
落成したばかりの建物の外装タイルが、地震もないのに突然剥離 しはじめたら、世間はこの事故をいったいどう評価するだろうか? 直ちに「手抜き工事」があったものとして、ゼネコンも工事監理者 も間違いなく世間の袋叩きに遭うだろう そんな馬鹿げた事故がいまどき起こるはずがないと誰もが考える だろう。しかし、現実に起こりそうになったのである幸い、間一髪 のところでくい止められ、事なきを得たが、その原因を究明する過 程で建設現場をとり巻く重大なブラックボックスの存在に行き当た った。 事は3年前に遡る。施工は、大手ゼネコンT建設で、入念な施工 が行われているように見受けられたものの、念のため1階の外壁の タイル張りが完了した時点で、接着強度試験を行なうよう指示した ところ、試験を実施した全箇所で接着強度不足という思いもかけぬ 結果が露呈した。しかも、その内の数カ所は、引張試験器をタイル 面にセットした途端にその自重で剥離するほどの前代未聞の状況で あった。 問題は接着モルタルメーカーが下請納入業者の試験成績表を鵜呑 みにし、そのままブレンドして出荷していたことにあった。現場か ら未使用の接着モルタルを送り返し、改めて工場内の実験室で素材 分析と強度試験をするよう求めたところ外注先から納入された撥水 材の品質は、規格の下限値を下回る粗悪品であり、このため全量が 建設省の標準仕様に定める所定強度に達していないことが判明した これだけの結果が判明したにもかかわらず、メーカーは、「単に 混入した撥水材の品質に問題があっただけで当社の商品には何ら問 題はない」と主張し続ける。こんな馬鹿げた言い訳が通用するので あろうか? 撥水材を混入したものがこのメーカーの商品なのであ るから欠陥のある撥水材を混入すれば、製品そのものに欠陥が生ず るのは自明のことである。
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このような問題点を内蔵した同社の製品を、そうとは知らず に使用し、何らかの理由で引張試験を行なわずに使用に共され ている建物は、現実にかなり存在するはずである。それらの建 物に、今後地震などの衝撃で、タイルの剥離問題が生じた場合 その責任はいったい誰が負うことになるのであろうか? 一方その後のゼネコン側の対応はどうであったか。工期に余 裕があったことも幸いし、タイルを追加発注し、それまでに張 り終えたタイルをすべて撤去し、現場練りモルタルの在来工法 でタイル工事を終了した。ちなみに改めて行なった接着強度は すべてが所定強度の2倍であったことが確認された。 弊社は、工事監理に当たり、工事段階ごとに入念な検査を実 施していたため、今回の欠陥を早期に発見し、問題を未然に防 止することができた。工事監理に当たっては、当然と思われる 事柄であっても、段階ごとに検査を実施する習慣をつけること がいかに重要なことであるかを重い知らされた出来事であった PL法施行1周年を迎えた今、改めて建設業界をとりまくブラ ックボックスの存在を指摘し、メーカーの製造責任を問うもの である。 (茜設計投稿文)
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