HARMONY vol.20 1997 AUTUMN |
先祖代々伝わる土地を生かして残したい その願いが形になりました 深野 守弘 MFビルは、JR山手線・埼京線、西武池袋線、東武東上 線、地下鉄2本が走るターミナル「池袋駅」に徒歩8分という 交通至便の見本のようなマンションです。デパートや銀行、 オフィスビルなどが立ち並ぶ駅前から続く道路に面した14 階建てのMFビルは、大都会の中にあって、その環境にしっ くり溶け込んでいます。「ビルを建てる前は、この敷地にガ ソリンスタンドと3店入った店舗兼アパート、2階建ての我 が家と両親が住む平屋がありましたイチジクや柿の木などが 林のように茂っていて、池もありました。周りの高いビルに 囲まれて、うちだけが低く下がっていましたね」 近隣の人から「深野さんのところはいつ頃、立て直すのか しら」と期待されていたと笑う深野守弘さん。ガソリンスタ ンドが撤退することになり、1,179uの敷地の二分の一 に賃貸住宅を建て自分たちで経営管理していこうそれが軌道 に乗れば残りの敷地も活用していこうと考えました。池袋で 9世帯のアパートと12世帯のマンション駐車場を経営して いる深野さんは小規模の賃貸物件建設を頭に描きました。と ころが専門家の意見を聞いてみると「いっぺんにやってしま ったほうが有利」という判断でした。「平成6年のその当時、 この辺りの土地の評価額は1u当たり410万円でした。今 1 |
は180万円に下がっていますが、とにかくご先祖から伝わ る土地を残したくても残しようがないような状況でした。子 や孫に土地を残しておきたいという願いをどうすれば実現で きるか、それを模索しました」 そんな深野さんに協力してくれたのが、知人が経営する設 計会社でした。設計会社から特定優良賃貸住宅(特優賃)制度 東京都住宅供給公社による一括・借り上げ型の都民住宅など が提案されました。建設費の一部補助や家賃補助などの助成 が受けられるなどの優遇措置がある特優賃。そして、都内在 住者及び在勤者に優良な住宅を供給する都民住宅。その運営 管理は公社が行います。 「先祖代々からの土地に住んで今の生活を維持できること 固定的な収入が得られることにより建設費用の返済ができる こと、20年間の運営管理は公社が行うこと。設計会社が勧 めてくれたものは、私にとってリスクを伴わないシステムで した。また、都民の流出を防ぐ都民住宅を造ることは、人が 住むためのものを建てたいという思いと一致しました」 こうして守弘さんが考えていたよりも大きな建物を建て ることになったのです。 2 |
免震構造に設計を変更 平成6年秋にはマンションの建設がスタート。そこへ、7 年1月の阪神淡路大震災という大都市直下型地震が起こった のです。「新耐震設計基準に沿って計画し、すでに建築確認 も取得済みでした。けれども、震災現場を実際に見てきた設 計会社から“安心装置をつけませんか?”と免震構造に変更 すること勧められたんです」 安全性を高めることには賛成だった深野さんですが、コス トの面では悩みました。「極上はいらない、ほどほどでいい」 とタイルの質を下げたり、鉄骨鉄筋を鉄筋コンクリートに変 えたりと、いろいろな部分を見直して検討を重ねました。そ うやって費用を削っても、免震構造を採用するとなると建設 費用をかなり上乗せししなければなりません。「どうしようか と悩みましたが、やはり安全には代えられません。免震構造 への設計変更を決めました。自分たちの住まいであり、多く 3 |
の入居者が住むのですから、安心して住めることが第一です」 免震構造とは、地震に耐えるのではなく地震の衝撃波を和 らげ、地震のエネルギーを三分の一から五分の一に低減する もの。土地を掘り始めてから免震マンションに変更したMF ビルは、中間階免震を採用しています。この免震構造への変 更によって、工期は3ヶ月伸び、建築確認は再度取り直しと なりました。こうして免震構造の公社借り上げ型都民住宅が 誕生したのです。 「罹災するような事態があっては困るけど、何かあったとき のことを考えると少々のコストは仕方がありません。それに 今の時代で最高の技術といわれれば飛びつきますよ。長い間 良好な状態でマンションを維持していけますから」 4 |
近隣への配慮が必要 平成9年3月、鉄筋コンクリート造地上14階地下1階建 ての大規模マンション・MFビルが完成しました。建物1階 には3軒のテナントが入所。ファミリー向け住宅が全83戸 間取りは2LDK(65.97u)と3LDK(65.50 u)の2タイプ。駐車場台数は43台。入居者募集時の倍率 はおよそ9倍。4月から入居が始まって全室入居となりまし た。南面向きの明るい部屋、広いベランダ、規格より広い窓 を採用したため特注の網戸がつけられています。 MFビルを見上げた時、深野さんは、「すごいことしちゃっ たなぁ」と思ったそうです。「こんなどでかいものを造っちゃ って、このままいって破産しないかなぁ」と深野さんが冗談交 じりに言うと、かたわらで一緒にに見上げていた設計会社の 担当者が「絶対そういうことにはさせません」と力強い言葉を かけてくれたそうです。設計会社や建設会社など業者とのコ ミュニケーションをはかることを心掛けたという深野さん。 それが、深い信頼関係にまで発展していったようです。 入居が始まって、深野さんが気にかけたのがゴミ問題です 東京都では事業系ゴミの回収が有料となるなど、今やゴミは 重要課題となっています。「ゴミ出しのルーズな入居者がいる と、近隣からの苦情はそのオーナーのところに来ます。賃貸 アパートのオーナーさんで、“あんたのところの住人が決め られた場所以外のところにゴミを捨てている”と責められて ノイローゼになった人もいます。町会の役員もゴミには目を 光らせています」 5 |
MFビルでは塵芥室にゴミを集め、敷地内に清掃車が入って きて集積し、管理人がきちんと清掃しています。「不潔にな らず町の人に迷惑をかけないよう、近隣には気をくばってい るつもりです。町会の中で仲良くやっていこうと思ってます から」 1階にテナントをいれたのも商業ゾーンの活気を消さない ための配慮。大きな建物を建てるのだから、町のことを考え るのは当然と深野さんは考えています。 MFビルの意味は「免震・深野です(笑)」とのこと。 「実は先日、実際に地震があったときに、私は他所にいて大 きな揺れを感じたんです。それで家に電話を入れたのですが 家内は“あら、地震があったの?”と言うんですよ。私がい たのは家の近所でしたが、このマンションではまったく揺れ を感じなかったみたいですね」 目にみえない安全性に思いきった投資をした深野さん。大 事な局面での決断により、大きな安心を手にしました。 6 |