遮音能力はどれくらい必要か

 躯体条件は、壁厚180o、スラブ厚150o。防音仕様の集合

住宅の場合、床衝撃音対策からスラブ厚を180oとることも多

いが、今回は通常の場合と同様150oで、その分は床を浮かす

ことで対処している。

 天井は、防振金具による吊り天井で、約100oの空気層を設

け、グラスウール、天井遮音ボード、石こうボード、そして

ロックウール吸音板で仕上げている。

 界壁については、グラスウール、遮音シート、石こうボー

ド2枚張りのうえ、クロス仕上げとしている。

 床については、直張りの床材も検討したが、全周波数域で

バランスよく遮音性能を出したいということで、乾式浮き床

構造を採用し、タイルカーペット仕上げとした。カーペット

仕上げにしたのは、賃貸ということで、ピアノの出し入れな

どで床に傷がつきやすいことを考慮したためだ。

こうした防音仕様のおかげで、上図のように、ほぼ目標どお

りの遮音性能が実現するに至っている。


まだ竣工したばかりの部屋に入れ

てもらった。気密性が高く空気の

逃げ場がないため、ドアを閉めて

しまうと、向こう側にいる人の話

す声はほとんど聞こえない。壁・

天井に高度の吸音処理を施してい

るため、何となく会話の声が吸い

とられるような印象を受ける。


集合住宅のネックは床衝撃音

 天井、壁、床とみてみると、やはり一番問題が生じやすい

のは床ということになる。集合住宅の場合、空気音の伝搬と

ともに、個体伝搬音による床スラブの振動で騒音が下階住居

に伝わるケースが非常に問題になっている。一時は、子供が

ドタバタ遊ぶ音がよく苦情のもとになったが、それに加えて

最近はフローリング仕上げの流行で、ハイヒールのコツコツ

という音や家具を動かす時のギーギーいう音など、いわゆる

軽量床衝撃音が苦情のタネになる。

 カタログを見ているとLLとかLHという記号が目につくが、

前者が軽量衝撃音、後者が重量衝撃音の遮音能力を示してい

る。最近の床構法は最高級レベルではLL-45、LH-50にまで達

している。

北側は、路地をはさんで民家と隣接している。

南側の前面道路のはす向かいには、印刷関係の

小さな町工場があり、輪転機の回る音が聞こえ

てくる測定はしなかったが、暗騒音はだいたい

   30dB程度といったところか。


 ただ、ここまで性能が向上しても、上階の音が全然聞こえ

ない(感じない)というわけではない。音というのはあくま

で主観的な量で、同じ音でも感じ方に個人差が多い。結局、

苦情が発生するかどうかは、居住者がどのように生活してい

るか、その住まい方次第ということになるらしい。

設計+施工+音響の連携を

 音に関するニーズが一般レベルでこれだけ高まっている反

面、それに対応できる設計事務所はまだまだ少ないのが現状

のようである。

 設計事務所側は防音上の躯体条件は具備しておき、あとは

防音メーカーにという形で処理してしまいがちである。ユー

ザーのほうでも、工事を頼もうにもどこに発注してよいかわ

からないということが多い。安価なコストで防音工事を簡単

に引き受けるところもあるが、綿密な測定に基づいて材料・

構法を選定し、精密に施行できるノウハウを持ったところで

ないと、失敗する可能性は高い。多くの防音設計を経験して

きた冨重さんは、次のようにアドバイスしている。

「防音というのは、設計者、施工者、そして防音メーカーの

3者の密接な協力があって初めて成功するものだといえるで

しょうね」。

 

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